【当院発表の入浴事故論文 (1)】 正式公開予定2025.5.31日 更新日2025.05.18  HOMEへ メニューを隠す 次のページへ

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重要ポイントがわかりやすいように箇条書きにしました。
※記号●○×のの説明
●は当院での調査結果と考察。
○は過去論文からの資料。
×は従来の見解であり、現在は間違っていると考えられる内容。

【はじめに】

ここの内容は従来の報告と大きく異なっています。入浴事故に関する2022年以降の新常識をお伝えします。
最新の医学論文として認められた調査資料を基盤にしていますので、信憑性が高い情報です。

従来の入浴事故に関する代表的な間違った見解を挙げておきます。
×●(1)「入浴事故の原因はヒートショック」:間違いです。
  そもそもヒートショックという用語は医学用語ではなく、俗語です。入浴事故の9割は熱中症の一種である熱失神が一次時的な原因です。
 (ヒートショック説とは脱衣所と浴室(浴槽内)間の温度差により誘発された脳卒中・心臓発作のために、入浴中に急死するという説です)
×●(2)「脱衣所を暖かくすると入浴事故が減る」:間違いです。
 湯温と脱衣所の温度変化が小さい温泉での入浴回数当たりの事発生率は家庭の4倍多かった。
×●(3)「入浴時間10分以下なら安全である」:間違いです。
 入浴時間5分で意識消失して溺れかけた人がいた。○たまたま入浴開始から死亡発見までの時間が分かった例での入浴時間がかなり短い例が多い。
×●(4)「飲酒後の入浴は危険である」:間違いです。
  酒(ビール)消費量は夏よりも冬に多いが、入浴中急死は冬は夏の5〜10倍となっている。
 入浴前の少量の飲酒では、失神は増えないと考えられるので問題ない。
×●(5)「冬に入浴事故が増えるのは脱衣所と湯温との温度差が大きくなるせいである」:間違いです。
 温泉の脱衣所は一戸建て家屋の脱衣所に比べて、暖房で寒くない。入浴回数当たりの入浴事発生率は温泉のほうが家庭の4倍多かった。
×●(6)「30歳以下の若い人の入浴事故は極めて少ない」:間違いです。
  入浴中急死の正確な実数は現在も不明ですが、若い人の入浴中急死は心臓発作による死亡として死亡診断書に登録されやすいようです。入浴中急死は高齢者が多いが、中学生、高校生、20歳代の入浴中急死も稀ではない。
 これらは、日本循環器学会関連雑誌「心臓」に掲載されました。
(1)前田敏明,前田貴子:問診による入浴事故の調査研究-従来法との比較-.心臓2022;54:777-784
(2)前田貴子,前田敏明:浴槽浴中急死の一主要機序.心臓2022;54:1264-1271
(3)前田敏明,前田貴子:入浴は家庭よりも共同浴場が安全なのか-入浴中急死リスク評価-.心臓2023;55:836-842
(4)前田敏明,前田貴子:浴槽浴事故はなぜ冬に多いのか.心臓2024;56:963-971

●ネット上の「J-stage( www.jstage.jst.go.jp ) 」または「Google Scholar(https://scholar.google.com/)」で、キーワード「前田敏明 入浴事故」で検索すると(1)-(3)まではPDFをダウンロードできます。(4)は2025年10月公開される予定です。


【問診による入浴事故の調査研究】の概説 

尚、各表の資料は論文(1)からの引用です。

○従来の入浴事故報告は救急搬送された人、入浴中に死亡した人の調査結果でした。

●今回の調査(2018年から2021年3月までの2年4ヶ月)では 1,772人を対象に医師が直接入浴事故の聞き取り調査を行いました。 直接医師が聞き取り調査を行うことによって、単なるアンケート調査では捨てられてしまう未知の情報が多く得られました。そのおかげで分かった重要な例として2つだけ挙げると、
●救命された入浴事故者のうち、脳卒中を除いたほとんどは失神と考えられた。
○×入浴事故の原因の大部分が脳卒中と心臓発作と考えていた過去の報告を覆す結果でした。

● 【表1】の説明
 聞き取り調査の対象となった28.8%の人が1件以上の入浴事故(中等症以上)を報告しました。 浴槽浴では心肺停止463件、重症41件、中等症112件の報告がありました。予想よりも遙かに多い印象でした。
○×過去の報告においては、死亡後の診断(検案、剖検)では心臓発作と脳卒中が多いとされていました。しかし、死亡後の発症直後の心筋梗塞や脳梗塞を診断することはほとんど不可能と法医解剖の専門書にも書いてあります。例外としては頭蓋内出血があります。これらの診断は状況から判断した推測であり、しかも信憑性は低いと言われています。救急医学会はこの考えに同意しています。
○●救助された人の約1割は脳卒中でした。○心臓病は1%との報告がありますが、今回調査ではゼロでした。。
●心肺停止症・重症・中等の入浴事故報告率は高齢になるほど高く、80歳以上では47.3%、20・30歳でも14.5%もいました。若い人でも中等度の入浴事故者が少なくないことは意外でした。10歳から20歳代の若い人の典型的な入浴事故は「浴槽から出た直後に意識がなくなり、倒れた」というものです。

【表1】 中等症以上の入浴事故を報告した人の割合と人数

年代

     女

合計

80歳以上

32.0%
(32人/100人)

62.1%
(64人/103人)

47.3%
(96人/203/人)

70歳代

29.7%
(46人/155人)

44.9%
(70人/156人)

37.3%
(116人/311人)

60歳代

32.1%
(50人/156人)

40.5%
(64人/158人)

36.3%
(114人/314人)

50歳代

28.0%
(44人/157人)

27.1%
(42人/155人)

27.6%
(86人/312人)

40歳代

10.5%
(16人/153人)

23.2%
(36人/155人)

16.9%
(52人/308人)

20・30歳代

13.8%
(22人/160人)

15.2%
(25人/164人)

14.5%
(47人/324人)

合計

23.8%
(210人/881人)

33.8%
(301人/891人)

28.8%
(511人/1,772人)

括弧内は(中等度以上の入浴事故を報告した人数/報告者の人数)


●【表2】の説明
  過去の入浴事故の報告では重症度別報告はほとんどありません。そのため、今回の重症度の定義を如何にするか苦労しました。詳しくは論文(1)(2)を読んで下さい。結果、●重症度別ても入浴事故頻度に男女差はありませんでした。通常の疾病ならば死亡の何倍も重症例や中等症例が多いことがよくあるパターンです。例えば救急病院に到着した急性心筋梗塞の死亡率は、およそ10%以下です。細菌性肺炎(市中肺炎)の死亡率は5〜15%です。
●ところが、入浴事故では心肺停止(発見時死亡)で発見される人数は、重症・中等症の人数の何倍も多かったのは驚きでした。特に浴槽内事故は死亡率が高くなっていました。これは救助が間に合わないとこが多いことを示しています。○×「家庭浴での家族の声掛けによって事故の早期発見が可能となるので重要です」とよく言われます。しかし、ほとんどの場合救助が間に合わずにすでに死亡しています。
●浴槽内で意識がなくなると、直ぐに溺れるため、1分後に救助されても重症肺炎で死亡することがあります。さらに、溺れてから数分後の救助では低酸素血症による窒息死、または脳循環不全による脳死になると考えられます。

【表2】入浴事故の重症度別件数-男女の比較- 

 性別

心肺停止

重症

中等症

軽症

最軽症

合計

217件 ns
(46.9%)

20件ns
(49%)

56件ns
(50%)

9件ns
(41%)

15件ns
(50%)

317件
(47.5%)

246件ns
(53.1%)

21件ns
(51%)

56件ns
(50%)

13件ns
(59%)

15件ns
(50%)

351件
(52.5%)

合計

463件
(100%)

41件
(100%)

112件
(100%)

22件(100%)

30件
(100%)

668件
(100%)

いずれの重症度でも男女間で有意差なし(有意差なしns)。

【表3】は省略
【表4】の説明
 入浴事故の重症度別割合を年齢層別で比較しました。高齢になるほど心肺停止の割合が高く、中等症(非心肺停止)の割合が低くなっていました。
年齢によって事故の重症度分布が異なることが分かりました。その理由についてはまだよく分かっていません。

【表4】20歳以上での年齢層別の重症度別入浴事故件数(年齢群別の割合)

年齢層

心肺停止

重症

中等症

軽症

最軽症

合計

老年群
(70歳以上)

336件▲**
(73.4%)

25件ns
(61.0%)

60件▽*
(58.8%)

11件ns
(50.0%)

5件▽**
(21.7%)

437件
(67.6%)

中高年群
(50〜69歳)

89件▽**
(19.4%)

14件ns
(34.1%)

25件ns
(24.5%)

7件ns
(31.8%)

10件▲*
(43.5%)

145件
(22.4%)

若壮年群
(20〜49歳)

33件▽**
(7.2%)

2件ns
(4.9%)

17件▲*
(16.7%)

4件ns
(18.2%)

8件▲**
(34.8%)

64件
(9.9%)

合計

458件
(100%)

41件
(100%)

102件
(100%)

22件
(100%)

23件
(100%)

646件
(100%)

 ▲は統計学的に多い、▽は少ないことを示します。し(*p<5%,**p<1%)

【表5】の説明
 入浴事故の重症度別割合を家庭と共同浴場(温泉や銭湯)に分けて比べました。
●心肺停止の割合は家庭で高く、共同浴場で低くなっていました。中等症(非心肺停止)の割合は、その逆になっていました。
●その一番の理由は、共同浴場では同時入浴者によって事故発生直後に救助され、溺死することが少なくなるためと考えられました。

【表5】 入浴施設ごとの重症度別入浴事故件数(各施設別の割合)

事故発生施設

心肺停止

重症

中等症

軽症

最軽症

合計

家庭

421件▲**
(90.9%)

36件ns
(88%)

69件▽**
(61.6%)

6件▽**
(27%)

25件ns
(83%)

557件
(83%)

共同浴場

41件▽**
(8.9%)

5件ns
(12%)

40件▲**
(35.7%)

16件▲**
(73%)

5件ns
(17%)

107件
(16%)

老人ホーム

1件ns
(0.2%)

0件ns
(0%)

3件▲**
(2.7%)

0件ns(0%)

0件ns
(0%)

4件
(1%)

合計

463件
(100%)

41件
(100%)

112件
(100%)

22件
(100%)

30件
(100%)

668件
(100%)

▲有意に多い、▽有意に少ない、ns有意差なし(*p<5%,**p<1%)

【表6】の説明

 入浴事故の重症度別割合を事故発生場所別(浴槽内と浴槽外)で比べました。浴槽内事故では心肺停止で発見されることが多いことが分かりました。
入浴事故の9割は意識消失から始まっていました。浴槽内で意識消失するとすぐに溺死するために、心肺停止で発見されることが多いと考えられました。

【表6】 浴槽内外の重症度別入浴事故件数(場所不明を除いた割合)

事故発生場所

心肺停止

重症

中等症

軽症

最軽症

合計

浴槽内

389件▲**
(92.0%)

19件▽**
(49%)

46件▽**
(41.1%)

8件▽**
(36%)

16件▽*
(53%)

478件
(76.4%)

浴槽外

34件▽**
(8.0%)

20件▲**
(51%)

66件▲**
(58.9%)

14件▲**
(64%)

14件▲**
(47%)

148件
(23.6%)

不明

40件▲**
(-)

2件ns
(-)

0件▽**(-)

0件ns
(-)

0件ns
(-)

42件
(-)

合計
(不明を除く)

423件
(100%)

39件(100%)

112件(100%)

22件(100%)

30件(100%)

626件(100%)

▲有意に多い、▽有意に少ない、ns有意差なし(*p<5%,**p<1%)